介護老人保健施設・・・
病院と家庭を結ぶ中間施設とか在宅復帰のための施設と呼ばれています。
実際は一人暮らしだったり家族が共働きで介護ができないとか高齢者世帯で介護力が低いなどなど社会的な問題もあり自宅に帰ることの出来ないご利用者が沢山いらっしゃいます。
私の施設でもそれは否定できないところでもあります。
本当に在宅復帰の条件が備わっていたとしてもご利用者はもちろんご家族が納得をしてお帰りいただかなければ厳しい状況に陥る危険もあるからです。
昨年の春、お一人のご利用者Bさんが在宅復帰の準備をしていた頃の話です。
当初から気候が良くなった頃に退所ということで、いざ具体的な打ち合わせをしましょうという段階になりました。
在宅のケアマネジャーさん、各サービス事業者さん、ご長男夫婦、施設担当スタッフそしてご本人を含めての話し合いです。
和気藹々とした中での情報交換が行われる中お一人だけがずっと下を向いて話を聞いていられました。
退所の日取りも決定し打ち合わせは終了・・・・
「お嫁さんの様子おかしかったですよね。いつもの面会に来てくださる表情と全然違ってましたよね。」
誰からとなく私達スタッフは言葉を発しました。
このまま帰って頂くわけにはいかない・・・
その後の面会においでになった時にお嫁さんと話をしてみました。
「もう、いいんです。帰ってくることは決まっていたのだし、私が面倒みるのも決まっていたんですから・・」
何が心配とか何に苛立っているとか心の整理もついていない様子でした。
「ご自宅へお帰りになる前にご夫婦でBさん個別の介護教室をしてみませんか?それから、もう一度退所を考えてみたらどうでしょう。」
Bさん担当職員が中心となって「在宅復帰のための介護教室」がはじまりました。
自宅を想定して畳部屋で、もちろんBさんも一緒です。
最初は照れもあったのでしょう。Bさんもそしてご長男もぎこちなさや何ともいえないきまりの悪さが感じられました。
何回か行ううちにBさんとお嫁さんの会話やお世話のしかたも自然とスムーズになり
この介護教室を楽しんでいるようにも見えてきました。
そしていよいよ退所の日が来ました。
「いつでも、介護がつらくなったら無理はしないでくださいね。私達も一緒にBさんのお世話をしますから・・」
職員の一人がそんな声をかけてくれました。
それから、Bさんは時々ショートステイを利用し私達に元気な顔を見せてくれています。
冬場は介護休みをと入所を予定していました。
入所のご案内をご自宅にすると、お嫁さんから
「なんだか、家で頑張れそうです。退所の時に皆さんが一生懸命になってくれた事と、いつでも皆さんが私の力になってくれるって思えるから。心配しないで頑張れます。」
こんな温かいお言葉をいただきました。
Bさんのお嫁さんから、私達スタッフが在宅復帰の難しさや諦めない強さをもらったような気がしました。
T.A